「ニッサン パビリオン」制作秘話

18 February 2021

「ニッサン パビリオン」制作秘話

STORIESでは、TBWA\HAKUHODOが創造し国内外で高く評価されているさまざまな作品と、そのビハインドストーリーを紹介していきます。

まずは、2020年のハイライトと言える「ニッサン パビリオン」をピックアップ!

「ニッサン パビリオン」は、2020年8月から10月にかけて、横浜みなとみらい地区に期間限定でオープンした体験型エンターテイメント施設です。

芸術的なインスタレーション、超大型スクリーンに映し出される吸い込まれるような映像、大坂なおみ選手との対戦が楽しめるバーチャルテニスゲーム、オリジナルアニメーション、そして給仕ロボットが注文したメニューを運んでくれるおしゃれなカフェ・・・などなど、日産の先進技術が私たちの生活をどのように拡張するのか体感できる、特別な場所となりました。

TBWA\HAKUHODOは、このエンターテイメント施設の企画から全体のコーディネート、そしてコンテンツ開発に到るまでを担当しました。

クルマのファンだけでなく、誰もが楽しめることのできるニッサン パビリオン。多くの人々に惜しまれながら昨年10月に幕を閉じてしまいましたが、今回は、このプロジェクトを指揮したTBWA\HAKUHODO エクスペリエンシャルマーケティング局の森 峰夫、杉本 亜衣から、この一大プロジェクトに込めた想いと制作秘話をお届けします。
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これまでにないエンターテイメント施設を作る

Q: ニッサン パビリオンは、これまでにみた一般的なモーターショーやショールームとは全く違う「エンターテインメント施設」でした。このようなインタラクティブなパビリオンのアイデアを、どのように生み出したのでしょうか?

インタビューに応じているTBWA\HAKUHODO エクスペリエンシャルマーケティング局の杉本 亜衣(左)、森 峰夫(右)。

インタビューに応じているTBWA\HAKUHODO エクスペリエンシャルマーケティング局の杉本 亜衣(左)、森 峰夫(右)。

森: 日産からのブリーフは、訪日外国人が爆発的に増える東京2020に合わせて、日産ブランドを世界にアピールするパビリオンを作りたいというものでした。

それを受けて、私たちは、最新テクノロジーを披露する通常の「クルマ好きのための展示場」ではなく、「クルマに興味を持たない人」をターゲットにし、幅広い人々が楽しめる、これまでにないエンターテイメント施設を作るべきだと、クライアント担当者と議論を重ね、チーム一丸となり、終始その想いを共に貫き通しました。このチャレンジは「他のやらぬことをやれ」という日産の創業者のフィロソフィー、そしてTBWA\HAKUHODOが掲げる「Disruption®︎」にも合致するものでした。

Q. 近未来を感じさせる円形のパビリオンに足を踏み入れると、和を感じさせる庭園が広がります。屋内では発表されたばかりの「日産 アリア」が走行し、フェアレディZのプロトタイプが美しく展示されていました。現代アートの美術館のような印象的な施設を創造したデザインプロセスについて聞かせてください。

杉本: パビリオンを作り上げるまでには多くのチャレンジがありました。その中でも特筆すべきはデザインプロセスです。

通常、このような体験モノを作る場合、すでに決まった空間に対して、あとからコンテンツをインストールしていくことが多いんです。例えば東京モーターショーもそうですね。ただし、今回は「建物をゼロから作る」ところから始まり、建築設計とコンテンツ制作を同時並行させながらお互いにフィードバックし合って進めて行く必要がありました。重要視したのは、「カスタマージャーニー最適で建築デザイン・設計に落とす」ということ。建築と体験コンテンツは従来分離されがちですが、両者を切り離さずに、連続的なブランド体験としてデザインすることで体験価値を上げていく。来場したお客さまに対して、どういう体験をしてもらうのがベストか、というカスタマージャーニーを元に建築側の設計を考えていきました。

コロナ禍の中「ゼロから」作り上げるエンタテインメント施設

Q. 「これまでにない」施設を作るクリエイティブプロセスの中で、最も苦労した点は何でしたか?

チームでの会議様子

チームでの会議様子

杉本: 体験を重視するエンターテイメント施設であるという特性上、実際に体験しなければそのアウトプットの良さがクライアントやメンバーに伝わらないということが、このプロジェクトの困難な点でした。

たとえば、映像の見せ方一つをとっても、巨大なスクリーンで”大きく”見せるのが良いのか、もしくはモニターを100枚並べて”数”で見せていくのが良いのかなど、見せ方はさまざまですよね。ただ、それをパビリオンの中に落とし込んだときにどのような空間になるのか、企画書や図面だけではなかなか想像が難しかったんです。

そこをブレイクスルーしたのが、打合せのその場でCGを作成してVRを活用する手法です。日産デザインチームが主導し、実際にパビリオン内を歩いているかのようなリアルな類似体験ができるよう工夫することで、企画の良し悪しが伝わらずに判断が難しいことも、全員が納得できる形で進行することができました。

Q. 2020年は、新型コロナの感染拡大という予期せぬ出来事が起こってしまいました。プロジェクトがスタートした当初からは、さまざまな計画の変更が不可避だったと思います。どのような影響と変更がありましたか?

森: 新型コロナの影響は、本プロジェクトを進めていく上で当然大きな課題となりました。デジタルエクスペリエンスをメインにして、既に建設が進んでいたパビリオンを縮小することを真剣に検討した時期もありました。

それでもやはり、多くの方々に実際にパビリオンに来場していただき、日産が思い描く未来の生活を体験していただきたいと、クライアントをはじめプロジェクトメンバー皆が強く思い、さまざまな施設の感染対策をベンチマークし、感染防止対策を万全にした運営計画を立てました。

幸いにもパビリオンのオープン予定日よりも前に緊急事態宣言が解除され、無事にオープンし、そして、徹底的な感染防止対策により期間中、施設からの感染者を一人も出すことなく会期を終わらせることができました。

日産が描くちょっと先の未来とはー

Q. ニッサン パビリオンは、施設全体がZERO EMISSION (排ガスゼロ) であることも見どころのひとつで注目を集めました。これはどのように実現されたのでしょうか?

ニッサンパビリオンで設置されていたEV専用駐車場の様子

ニッサンパビリオンで設置されていたEV専用駐車場の様子

杉本: パビリオンは、日産初のクロスオーバー電気自動車(EV)「日産 アリア」のワールドプレミアの場でもありました。アリアが当たり前のように街を走る近い未来、EVは単なる移動手段を超え、人々の生活や街の可能性を拡張していく存在になっていく、というメッセージを伝える工夫がパビリオンには散りばめられています。その象徴がNISSAN CHAYA CAFEでした。カフェの天井に敷き詰めた太陽光パネルで電力を作り、ガーデンの日産リーフに電気を貯め、カフェの中の照明などに使用することで、エネルギーのエコサイクルを実現しました。EVが、暮らしの様々なシーンで役立つエネルギーのハブになっていることを実感できたはずです。

また、パビリオンのEV専用駐車場は、充電する場所ではなく、お客さまのクルマからパビリオンへ給電いただくというユニークな設計にしました。EVの電力をパビリオンへ供給してもらうことで駐車代を無料に、さらにカフェで使えるお得なクーポンがもらえるという逆発想的なシステムにすることで「電力が貨幣価値を持つ」という近い未来の新しい考え方を象徴的に体験できる場所になっていたかと思います。

Q. 8月のオープンから多くの方々が来場されました。来場客からどのような反応がありましたか?

森: 当初の狙い通り、クルマファン層だけでなく、家族連れや若いカップルなど、これまでクルマや日産ブランドに深い興味を持っていなかったような方も来場してくれ施設を楽しんでくださいました。

多くのお客さまから「未来を体験できた」、「クルマに興味がなくても楽しめる」、「このような素敵な施設が期間限定で閉まってしまうのは勿体無い」などの感想をいただきました。SNSでも反響が大きく、この施設を体験したあと、クルマの技術のみならず、ProPILOTウェイター(カフェの給仕ロボット)をはじめとした日産の技術で作られていく未来への期待の声が上り、とても嬉しく思っています。

ProPILOTウェイターロボット

ProPILOTウェイターロボット

ポストコロナの「リアル体験」のあり方を提示、新たな自信に。

Q. 多くの方に惜しまれながらも、ニッサン パビリオンは期間限定の施設で、2020年10月23日に幕を閉じました。このプロジェクトを振り返り、エクスペリエンシャルマーケティングとして学んだことや今後に生かしていきたいことなどがあればお聞かせください。

杉本:ポストコロナ時代の新たなリアル体験のあり方を提示できたのではないかと思います。

多くのイベントがオンライン化する中で、我々は「リアル」に徹底的にこだわりました。パビリオンのコンテンツをそのままVR化してサイトに格納する、という手法は取らず、あくまでデジタルは興味喚起の役割に留めました。その代わり、実際に来場されるお客さまへの心理的ハードルを取り除くために、混雑状況や感染症対策への取り組みについてデイリーでコミュニケーションを取ったり、密にならないよう運営には非常に気を遣いました。

非接触型のコンテンツもメディアに対して非常に好評で、多くの記事露出につながりました。無人で料理を運んできてくれるProPILOTウエイターや、キネクト反応型のARIYA TECH DISPLAYなどですね。直接手に触れずに安心して体験できるというところが評価されました。

また、イベント来場者の行動ログを可視化し、来場による効果を計測するOMO施策としての一端もパビリオンでは担っていました。

今後のエクスペリエンシャルマーケティングは、オンライン・オフラインの融合によって顧客体験を向上させていくことがより一層重要になると予測されます。ここでの経験と実績が大きなベンチマークになりました。

キネクト反応型のARIYA TECH DISPLAY

キネクト反応型のARIYA TECH DISPLAY

森:「体験」を中心に据えたエクスペリエンシャルマーケティングの可能性を提示できた機会だったと思います。

2020年の夏、日産の新たな幕開けにあたって、大きく3つのエレメントがありました。一つは新しいブランドロゴ、もう一つは新型「日産 アリア」の発表、そして、3つ目がこのニッサン パビリオンでした。これらを全て同じタイミングに集中させることで、世の中に対して、日産が「新しく生まれ変わる」というインパクトのあるニュースを作ることができました。

ロゴの変更は大きな話ですが、それだけでは少しインパクトに欠ける。「日産 アリア」の発表だけでは単なる新車発表にすぎなかったかもしれない。ところが、これらを全部、日産が今後突き進んでいこうとしている世界観で束ねた空間を作り、実際にそれらを実感してもらう場を設けたことで、発信したいメッセージがよりシャープに、より大きなインパクトで伝えられたと思います。

ブランディングの大きな転換期にあたって、「リアル」を通じて日産ブランドの理解を実感を持って深めてもらうという、とても大事な一端を担いそれをやりきったことは、我々が持つクリエイティビティとプロデュース力に対する大きな自信となりました。

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今後も、私たちのさまざまなプロジェクトの秘話を紹介していきます。
次回もお楽しみに!

広報チーム (koho@tbwahakuhodo.co.jp)