Disruption Lounge vol.005 遊ぶように、学ぼう。— 新しい時代の学びのあり方を探る

25 February 2026

Disruption Lounge vol.005 遊ぶように、学ぼう。— 新しい時代の学びのあり方を探る

「DISRUPTION®」を会社の哲学・メソッドに掲げるTBWA\HAKUHODOは、その考え方を社外に開き、より社会に意味ある変化をつくりだすためのオープンイノベーションの取り組み「Open Disruption®」を推進しています。その一環として実施しているのが、Disruptionでつながる対話イベント「Disruption® Lounge」です。

2026年1月27日(火)に開催した第5回目となるDisruption® Loungeでは、「遊ぶように、学ぼう。」をテーマに、新しい時代に求められる“学び”のあり方について考えました。人口減少や社会環境の変化、AIの進展によって、これまでの「前提」や「正解」が揺らぐ中、私たちはどのように学び、考え、行動していけばよいのでしょうか。本イベントでは、「遊び」に内在する好奇心や主体性に着目し、その可能性を探りました。

【登壇者】
一色 顕(Cross Border Learning株式会社 代表取締役)
ニールセン北村 朋子(文化翻訳家)
髙橋 純司(学校法人益田永島学園 明誠高等学校 学園デザインセンター センター長)

【モデレーター】
森 峰夫(TBWA\HAKUHODO エクスペリエンシャル・マーケティング部長)

① Convention:遊びは本当に「無駄」なのか?

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「遊びは無駄なもの」「学びは正解を身につけるためのもの」― 私たちは、このような固定観念を、いつの間にか当たり前のように受け入れてきたのではないでしょうか。

今回のテーマ「遊ぶように、学ぼう。」は、モデレーターである森の率直な問題意識から生まれました。不確実性が高まり、誰もが明確な正解を持てない時代においてなお、私たちの学びが“正解を求める勉強”に偏りすぎていることへの違和感です。

AIやリスキリングが盛んに語られる一方で、学びは義務的で、時に息苦しいものとして捉えられがちです。その背景には、点数や成果、効率といった評価軸が、学びそのものを縛ってしまっている構造が横たわっています。

森は、スキーを通じた旅といった個人的な「遊び」の体験を通じ、自然環境や地域文化、気候変動、地方の課題へと関心を広げていく感覚を語りました。しかし同時に、そうした学びが仕事や社会の文脈にうまく接続できていない葛藤も。

遊びは成果が見えにくく、コントロールもしづらい。だからこそ「無駄なもの」とされ、学びの領域の外に置かれてきたのかもしれません。しかし、本当に、遊びは無駄なのでしょうか? この根源的な問いこそが、今回のDisruption® Loungeの出発点でした。

② Disruption:遊びは新しい正解を創造するプロセス

ここからは、「遊び=無駄」という前提を覆す視点を、登壇者それぞれの実践から紐解いていきます。共通して語られたのは、遊びとは正解を“探す”行為ではなく、正解そのものを“つくりだす”行為だという、革新的な考え方でした。

■ ニールセン北村氏:未来から逆算する「ビジョン駆動の遊び」

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デンマークの教育や社会の実践を紹介したニールセン北村氏は、「遊ぶように学ぶ」ことは決して無目的な行為ではないと語ります。そこにはまず、「どんな未来をつくりたいのか」という明確なビジョンがあり、その実現に向けた試行錯誤のプロセスそのものが学びとして位置づけられているのです。

子どもたちが自らルールを決める授業や、屋外で行われる対話、民主主義を体感するフェスティバル。こうした実践では、「正解にたどり着くこと」よりも、「問い続けながら動き続けること」に価値が置かれています。遊びは、未来に向かって進み続けるためのエネルギーであり、新しい正解を生み出すための起点となる――彼女はそう示唆しました。

■ 髙橋氏:五感と対話が育む「問いの力」

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地域をキャンパスとした学びを実践してきた髙橋氏は、自然体験や創作、対話を通じて立ち上がる学びのあり方を紹介しました。五感で感じた体験を言葉にし、他者と共有するプロセスの中で、子どもたちは自分なりの問いを見つけていくのです。

特に印象的だったのは、AIに触れた体験を通じて、小学生が「AIは人類を滅ぼす力にもなるが、自分は平和のために使いたい」と語ったエピソードです。評価や正解を意識した言葉ではなく、体験から自然に湧き上がった思考こそ、彼らの「問いの力」を示していました。遊びは、知識を一方的に与えられる前に、自分自身の問いを育むプロセスであり、その問いこそが新しい正解の芽になるのだと。

■ 一色氏:正解をなぞるのではなく「枠組みを更新する力」

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一色氏は、「遊びは本来、学びと同義ともいえるもので、対義後は“勉強”だ」と喝破します。遊びという言葉には、”Play”と“Game”の両方があるが、勉強は“Game”と一緒で、あらかじめルールや勝敗があり、枠組みが決められている。一方で、学びとは、自らルール・枠組みそのものを創り出す問い直していく“Play”である、と彼は整理します。

遊びが真価を持つのは、成果や方法論が未定義であるからこそ。試行錯誤を重ねる中で発見があり、新しい視点や価値が生まれます。遊びとは、既存の枠組みの中で楽しむ、正解を効率よく再生産する行為ではなく、正解の前提やプロセスそのものを更新すること自体を愉しむためのDisruptionなのだと、明確な示唆が提示されました。

③ Vision:一人ひとりが「自分だけの正解」を創造できる社会へ

登壇者たちの個人や現場レベルの実践が示すのは、「遊び」が個人の姿勢に留まらず、社会全体の設計思想とも深く関わっているという事実です。ディスカッションでは、これらの視点を踏まえながら、「遊びを許容できる社会」をどう実現していくのかが議論されました。

議論の中で繰り返し言及されたのは、日本社会に深く根付く「評価」と「正解」を前提とした構造です。学びが点数や偏差値、成果と強く結びつくことで、遊びは“余白”ではなく“無駄”として扱われやすくなっているのではないか、という問題意識が共有されました。この価値観は、教育に留まらず、仕事や組織のあり方にも影響を与えているといいます。

そこで印象的だったのが、ニールセン北村氏によるデンマークの「船底修理」の例え話です。 船底修理は、船が沈まないために不可欠ですが、船本来の目的は「沈まないこと」ではなく、「前に進むこと」にあります。船底修理ばかりに意識が向いてしまうと、帆をどう張るか、どんな航路を選ぶかといった「本来考えるべき問い」が後回しになる。課題解決だけにとらわれすぎないことの重要性が示されました。

「遊び」は、こうした“帆”や“推進力”を生み出す行為なのかもしれません。では、私たちはいつから“帆を張る感覚”を失ってしまったのでしょうか。

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■ 好奇心を失い、立ち止まってしまった私たち

ニールセン北村氏からは、デンマークでは「遊ぶこと」が子どもの権利として明確に位置づけられていることが紹介されました。遊びを通じて人との関わり方やルール、合意形成を学ぶ経験を幼少期に十分に積むことで、結果として民主主義や社会参加への感覚が自然と育まれるという視点です。

一方、日本では幼い頃から「遊んでばかりいないで勉強しなさい」と言われる文化が根強く、本格的に遊びきる経験を持たないまま大人になるケースも少なくないのではないか、という問題提起がなされました。

髙橋氏も、地域で子どもたちと向き合う中で、「やりたいことが分からない」という声を多く耳にすると語ります。これは決して本人の資質の問題ではなく、長年にわたり“正解を外さないこと”を求められてきた結果、好奇心を起点に行動する感覚が育ちにくくなっていることの表れではないか。だからこそ、評価や成果から切り離された場所で、安心して遊び、試し、失敗できる時間と場を取り戻すことが重要だと、議論は深まりました。

■ 枠組みを更新する力を取り戻すために

一色氏からは、企業や組織の文脈においても同様の課題が指摘されました。多くの組織では、既存の枠組みの中で成果を出す力を鍛えてきた、仕組みを整えてきた一方で、その枠組みや仕組み自体を問い直し、更新したり、再構築する力が弱まっているのではないか、という視点です。

遊びのように目的や手段を固定せず、試行錯誤を重ねるプロセスに身を置くことこそが、新しい価値や変化を生み出す源泉になる。この考え方は、個人の学びのシーンに限らず、仕事や組織としてのあり方にも通じるものとして共有されました。

もちろん、会社や組織の中で「遊び」をすればすべてが解決するという単純な話ではありません。しかし、AIの進展や既存の競争社会の行き詰まりによって、これまで“正しい”とされてきた前提そのものが揺らいでいる今だからこそ、「遊び=学び」という価値観へのDisruptionが、現実的な選択肢として鮮やかに浮かび上がってきているのではないでしょうか。

④ Action:社会課題を「遊び」で探求する授業「かけテク」

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こうした議論を、具体的な実践へとつなげる取り組みとして紹介されたのが、TBWA\HAKUHODOが企画・開発したプロジェクト「かけテク」です。

「かけテク」は、子どもたちが社会課題を“遊ぶように”考えるための授業プログラムです。身近な違和感や問いを起点に、アイデアを掛け合わせながら考え、試し、形にしていく。その過程では、正解を教えるのではなく、問い続ける姿勢や発想のプロセスそのものを重視します。

「遊びを許容する社会」を語ることは簡単ですが、それを実装することは容易ではありません。「かけテク」は、その第一歩として設計された試みです。遊びを通じて社会とつながり、自分なりの正解をつくりだす。その実践は、「遊ぶように学ぶ」という本イベントのテーマを、社会の中で動かしていくための具体的なアクションとして位置づけられました。

参加者の声

参加者からは、多様な立場や価値観を持つ登壇者の話を通じて「自分自身も知らず知らずのうちに既存の枠組みに囚われながら生きていることに気づかされた」「これまでの自身の選択や生き方を、仕事や社会の文脈から肯定的に捉え直すきっかけになった」という声が多数寄せられました。成果や効率だけでは測れない個人の価値を、社会の中でどう位置づけ直せるのかを考える場として、意義を感じた参加者が多かったようです。

さらに、“遊びながら学ぶ”という考え方について「都市部と地方では受け取り方や実践のされ方に違いがあるのではないか」「個人の取り組みにとどまらず、自治体なども含めた広い視点で考えていく必要性を感じた」という声が寄せられました。

加えて、今回の議論が学校教育に限らず、社会教育や生涯教育、さらには仕事や個人の生き方にも接続しうるテーマであったことから「今後の実装や展開についてさらに考えてみたい」という声も聞かれました。

編集後記:モデレーターより

◾️ 「遊び」を、未来への羅針盤に

今回のモデレーターとして、私は「遊ぶ」ようにイベントを進めることを決めていました。つまりこのイベントを通じて、何らかの正解を“探す”のではなく正解を皆で“つくりだす”ことにチャレンジした訳です。
我々は、より一層不確実性が高まり、正解のない時代・社会を生き抜いていく必要があり、そのために「学び」は不可欠です。

今回の学びをTBWAの発想法であるDisruptionに沿ってまとめます。

まず、私たちが打ち破るべき既成概念、Conventionについて。登壇者間で事前に共有していたのは、「ひとつの正解を勉めて強いられる」こと、つまり「学び=勉強」という固定観念を早々に破壊すべきであるという認識でした。高度成長期を支えた教育や経済界における「勉強システム」は、決して間違っていなかったはずです。ただ、変化が著しい現在においてもその名残が色濃いことへの違和感が出発点でした。

そのConventionを打ち壊した先にあるVision。トークを通じて見えてきたのは、「自分だけの正解」を推奨できる社会です。非認知スキルが注目され、「かけテク」などの探求型学習が既に実践されている教育界では、その兆しが見えてきている気がします。では、「遊ぶように学んだ」人材を受け入れる側の企業や、彼らが活躍できる社会とは、どのようにあるべきでしょうか?

その模索は、まだまだ始まったばかりでこれからの課題です。但し、Visionに向かうためのDisruptionは、個々の好奇心が赴くままに、他者の評価の物差しに左右されずに「自分らしく在れる強さ」を持つことではないでしょうか。ここへの近道が、「遊ぶように学ぶ」ことなのでしょう。

Disruption Lounge vol.005 遊ぶように、学ぼう。— 新しい時代の学びのあり方を探る

正解は決して一つではありません。
学びを得るために積極的に「遊ぶ」ことが意味を持ち有用であることを、これからの社会や文化を創っていく重要な方向性の一つとして、今回のイベントにて示せたのではと感じています。

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【ゲスト登壇者紹介】

● Cross Border Learning株式会社 代表取締役 一色 顕 氏
ソニー 、ソニースペイン、リンクアンドモチベーション、同グループ会社の代表2社を経て独立、起業。ファシリテーションを軸に、企業組織の変革自走支援、リーダー人財の成長自走支援の事業、ミネルバ大のファカルティ(講師)、ストレングスコーチ、クロスボーダーでの学び合いの場づくりなどを手掛ける。ワークショップ・イベントのファシリテーション、研修講師・講演の実施本数は毎年200本を超えている。

● 文化翻訳家 ニールセン北村 朋子 氏
文化翻訳家/Cultural Translator。デンマーク・ロラン島在住。京都芸術大学 食文化デザインコース『持続可能な食との関係』講師。デンマークそもそもラジオ・パーソナリティ。デモクラシー・フィットネス・トレーナー。オンラインコミュニティDANSK主宰。ミッションは埋もれた価値の発掘と、新しい価値の創造。子どもと若者が幸せな社会をつくること。新刊『経済力も幸福度も高くなる デンマークのすごい教育』が2026年1月7日に発売予定。

● 学校法人益田永島学園 明誠高等学校 学園デザインセンター センター長 髙橋 純司 氏
学校法人益田永島学園 明誠高等学校 学園デザインセンター センター長/NPO法人旅とくらしの共感樂舎 副理事長。地域を学びのキャンパスとする学校改革「明誠ワールドシフト」を推進。NPOでは、廃園施設を再生した「令和関谷学園」など、地域を教材にした“地産地消の教育”を各地に展開。教育を媒介に「無縁」を「縁」へとつなぎ直し、子どもたちが地域に根ざし未来を創る学びをデザインしている。

【モデレーター】

TBWA\HAKUHODO エクスペリエンシャル・マーケティング部長 森 峰夫
2026年に20周年を迎えるTBWA\HAKUHODOの設立当初より在籍。エクスペリエンシャル・マーケティング領域を中心に、リアル体験を通じたブランド価値創出に長年携わる。広告やデジタル/SNSと連動したTotal Brand Experienceの設計・実装を数多く手がけてきた。多様な立場や視点を繋ぎながら、「この社会に意味ある変化」を生み出すための在り方を模索している。